【血族の】Skyrim【誇り】
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続き



俺は自分ではもう少し思慮深い猫だと思っていたんだが、どうやらその認識を改めねばならぬようだと気がついたのは良くも悪くもサイラス=ヴェスイウスのおかげである・・・なんて言っても彼はあまり良い気はしないだろう。

身に余る栄誉が転落の契機となったり、降ってわいた幸運に翻弄されて道を踏み外すこともある。

人間(俺は猫だがトカゲにだって言えるだろう?)一瞬先には何が起こるか解らないが、大切なのは確固たる立場と信念・・・他人に拠ることの無い自分が認める自分自身の持つ存在意義とも言っていい・・・つまりは「己」を強く持っておくことだ。

時に周囲に流され、はたまた独り頑迷に陥る身で偉そうな事は言えぬが、出来る出来ないを抜きにすればそこが「大切」なのは確かな事実なのだ。

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「素晴らしい!・・・ああ、なんと深い・・・吸い込まれるような輝きだ・・ッ!」

次々と口をついて出る感嘆詞が「この男は女を口説くときもこうなんだろうなァ・・・」と俺に余計な感想を抱かせるサイラスだったが、独り言にしては大き過ぎる呟きは徐々にヒートアップしてゆく。

俺は彼が用意してあった木枠の箱に収められた金貨千枚をざっと確かめると、約束どおり「赤表紙の禁書」第四巻を部屋の隅で金貨の詰まった箱に腰を下ろして読み始めた。


第一章を読み終わり一息つこうと顔を上げた時だった。

「ッ!!」

思ったより近くにこの家の主人の顔があった。

俺は思わず身を引き、壁際に置いた木箱に座っていたために背中を板壁にしたたかに打ちつけた。

「・・・そんなに驚かないでくれ、何度も呼んでいるじゃないか?」

俺の目の前にしゃがみこんでいたサイラスはちょっと傷ついたような顔をして見せた。

「ああ、スマン・・・本を読んでいると何も聞こえなくなってしまうもんで、な・・・で、なんだって?」

猫科の集中力がそうさせるのか、俺だけの特殊な事情なのかはよく判らないが、実際にソレが原因で危険な目に逢ったこともある位だ・・・まぁ、筋金入りだと思ってくれて構わない。

サイラスは「ふん・・」と少し呆れるような顔をして見せたが、気を取り直したのか少し興奮した調子で話し始めた。

「・・・実はアンタが最後の欠片を持ち帰ってから考えていたんだが、ね」

彼は立ち上がると俺の前を左右に忙しなく歩き回りながら、手振りを交えて話し始めた。

「私がこの”深遠の暁”博物館を開設したのには二つの訳がある・・・」

「一つは歴史的に見て大きな転換の契機となった”オブリビオンの動乱”について・・・つまり、過去の過ちについて考察し、そこから得られた教訓を今を生きる我々の糧とするため」

俺がここに入って来たのがお昼前だったから、今はもう日が暮れようとしているはずだ・・・外気温は氷点下だろうに、目の前で熱弁をふるう男は額にじっとりと汗を浮かべている。

「いま一つは、極めて個人的な事情ではあるが・・・つまり、そんな世界の変革に(悪い意味でだが)重要な役割を果たした”深遠の暁”教団と、その中でも有力な存在であった我が一族・・・すなわちヴェスイウス家の名誉と栄光を取り戻すことにあった!」

「・・・」

本当に個人的な理由過ぎて笑うことすら出来ない俺を誰が笑えよう?

「しかしッ!」

突然の大声に脳裏に浮かんだ茶々を見透かされているのかと、思わずびくん!と身を硬くした。

「今、ここに我が一族の悲願でもあった聖遺物・・・”メエルーンズ・デイゴンの剃刀”の破片が全て揃ったことにより、新たな目標が生まれたことをここに宣言しよう!」

まぁ、聞いてるのは残念ながら俺だけだけど・・・参考までに言ってみな。

「私は・・・私の先祖が代々受け継いでいたデイドラのアーティファクトを復活させたいッ!」

「はぁ!?」

俺は自らの演説に酔いしれてうっすらと上気し、片方の鼻の穴からは興奮し過ぎたのか鼻血まで垂らしているサイラスの顔をまじまじと見てしまった。

「おい、アンタ本気で言ってるのか?・・・デイドラのアーティファクトに関わって無事で済むなんて思ってるんじゃないだろうな!?」

目の前に立ちはだかり気色ばむ俺にサイラスは一瞬驚いたような顔をする。

(・・・支配じゃない、自発的に、か)

(それだけに厄介かもしれん、な・・・)

デイドラは人を惑わす・・・それは魅惑的な報酬を用いた契約であったり、言葉巧みに人間の自尊心や虚栄心をくすぐり破滅へ向かわせることだったりするが、詰まるところ彼らは彼ら自身の退屈凌ぎの様な理由で人の心を弄ぶ。

そしてデイドラの創り出した秘宝・・・デイドリック・アーティファクトの中には”メファーラの長刀”のように使用者や周囲の人々の心を操り、己が思うがままの惨劇を引起こす危険な物も少なくないのだ。

サイラスが単なる趣味の延長として壊れたアーティファクトの破片を集めているだけならば問題は無いが、これをどうにかして復活させようと言うのならば全力を持って阻止したい・・・なにしろこうなると破片を集めた手前、俺が巻き込まれるのは目に見えている。



「・・・もう一度、落着いてよく考えるんだ・・・この世界を混乱に陥れるのがアンタの最終的な目的だって言うならそれはそれで仕方ないかも知れんが、単なる好奇心や誰かを見返してやろうなんていう程度の低い思いつきでなら絶対に手を出すべきじゃない」

「・・・」

サイラスは「誰かを」のくだりで苦い顔をして見せた・・・やっぱり少し屈折してるんだろうな。

・・・無理も無い、こんな人口の少ない田舎に住んでいて、しかも過去のこととはいえ世界を破滅寸前まで追いやったカルト教団の有力一族だったなんて・・・。

両親は隠したろうその事実を知るにあたり、鬱屈した思いが爆発してこんなトンデモ博物館を開設したりしてしまったんだろう。

(せめてカッコイイとでも思わなくてはやってられないだろう・・・)

そう考えると彼が何時でも何処でも一目でそれとわかるような「深遠の暁」の赤いローブを着ていたり、費用対効果を考えたらほとんど金を捨てるのと同義の全スカイリムに向けたダイレクトメールの発送などは一族と自分のあるべき根拠を彼なりに考えた結果だったのだろう。

「・・・今日はもう遅い、明日またコレを読ませてくれ」

俺が暫く続いた沈黙を破り、手に持っていた禁書を彼に渡した。

・・・サイラスは無言で本を受け取った。

その胸中を思うと同情を禁じ得ないが、かといってそれが唯一の解決法だとは到底思えない・・・結局のところ背負ったものが大き過ぎて、いつの間にか背負っていたはずのソレに寄りかかってしまっていただけなのだ。

自分の居場所とそこに居ていい理由は自分の中に持つ・・・スゴイ家系に生まれたとか、デイドラのアーティファクトが家宝だなんてのは結局自分の拠所にはならないものだ。

(ガラにも無く説教をしてしまった、な・・・)

珍しく雲ひとつ無く晴れ、暗い夜空に淡い緑色の光のカーテンが広がるのを見ながら海辺の道を宿へと向かう。

最後は無言ながらドアを開けて見送りをしてくれた彼に、明日は何か宿で料理でも作ってもらってから行こう・・・そう考えながら星を見ていた。

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翌朝、前夜のうちに宿に言って作ってもらっておいた鹿肉のシチューの入った鍋を片手に、俺がサイラス邸を訪れたのはお昼前のことだ。

短い道中、俺は昨夜のお説教を思い起こして少々気まずさを味わっていた。

(・・・やっぱり軽く謝っておいた方がいいだろうなァ)

「すまない、ちょっと言い過ぎた」とか「俺も若い頃に親父に同じことを言われて・・・ちょっと格好つけ過ぎた、スマン!」とか「昔は俺もデイドラ信者だったが、膝に矢を受けてしまって、な・・・」とか、な。

5分ほどの道のりの間に15種類は考えたと思う、文才溢るる自分が怖いくらいだな・・・だが、結果的にはそのどれもが不採用となってしまった。

海からの風に赤いタペストリがはためく「深遠の暁博物館」の木製のドアには一枚の走り書きがピンで留めてあった。

「本日休館日」

俺が馬鹿みたいに口を開けてソレを見ていたのは数秒間だったと思う。

俺は極めて自然に周囲に目を走らせ、周囲に誰も(特に衛兵)居ないのを確認する。

ロックピックと細身のナイフを使って一瞬で錠を外すと、あたかも自分の家に入るように扉を開けて室内に滑り込んだ。

部屋の中は暖炉の中に僅かに炭が残っているので外よりは大分暖かかったが、人の気配は無くベッドも使用した形跡が無かった。

俺は先ず部屋の奥の展示ケースに近寄り・・・眼を眇め、舌打ちする。

昨夜までここに設置されていた「メエルーンズの剃刀」の破片とシース(鞘)がそっくり無くなっている・・・。

「・・・野郎ォ」

思わず唸り声を上げてしまうが、ふとその隣のケースに眼が行った。

俺が執心していた禁書の展示ケースは一見そのままに見えた・・・が、近寄ってケースの蓋を開けてみると、鍵はかけておらず・・・。

「・・・」

俺が昨日読みかけていた第四巻に何かメモのようなものが挟み込んであった。



もうちょっとだk←狼少年ktkr

コメント

菊の丞
2012年10月20日22:16

そういえば、reijirouさんの日記を見て剃刀の鞘とか集めるクエが
コイツのクエだったことを思い出しましたwあの自宅兼博物館に入る前に、
どこかのおねぇちゃんに止められた気がするんだが…クエ受けてたのか自分(遠い目

reijirou
2012年10月23日14:50

>菊さん

止められて正解です

鍛冶上げてデイドラ装備造ったり強化したりするなら・・・結末はどうあれクリアしといて損は無いと思いますけどね

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